土壁は、不便益である。
不便益、という言葉を知っていますか?
京大の先生が提唱している言葉なのですが、すごくしっくりくるのでご紹介してみます。
まず、不便益って?
「不・便益」ではありません、「不便の益」(benefit of inconvenience)のことなんです。手間いらずで効率的に要求が満たせる便利な道具よりも、「オートマ車よりマニュアル車のほうが“運転している”という実感があって楽しい」「電気鉛筆削りを使うより、ナイフを使ったほうが自分の思いどおりに削れて面白い」などなど、むしろ不便な道具を使うほうがうれしいことはありませんか? このような不便がもたらす効用(利益)を、私たちは「不便益」と名づけているのです。
カーナビやGoogle Mapに頼るようになって、道がすごく覚えられないとか。
ダイヤル式電話だった小学生ころは、少なくとも10数件は電話番号覚えてたな、とか。
心当たりありますよね。
便利にする方策としてさまざまな場面で多用されている「自動化」は、作業者のモチベーションの低下や自分の手で修理や改善ができない機械をもたらしました。「より便利なもの」が「生活を豊かにする」という考えが無批判に受け入れられ、結果としてそれが数々の技術進歩を促してきたシステムデザインの現場では、便利になったことで新たな問題が生まれています。そこでこれらの問題を解決するために、便利の押しつけで見過ごされてしまったけれども実は重要であったはずの事象――つまり「不便益」という視点から新たなシステムデザインの指針を探ろうと研究を続けているのです。
これまで、便利に効率的に…というのを追及してきたけれど、それによって見落としたものがあるのかもしれない、ということですね。本では、ねるねるねるね と 甘栗むいちゃいました の話なんかが出てくるわけですが(笑)。
公式サイト?では益の得やすい不便として、12種あげられています。
(このピクトグラムも、なぜか2枚に分かれているという不便益)
そして、不便から得られる益も、8種挙げられています。
(工学部のはしくれとしては、システム工学の香りがするわけですが…。この考え方、大きな企業体などではなかなか適用が難しいと思います。クレームの温床になりそう。でも、小さな企業や個人なら取り入れられるのではないかと思います。これからは、小さい個人の時代だ!)
そして、自分ごとに引っ張ってくれば、土壁です。
土壁、まさに不便益じゃないか!「アナログにせよ」「時間が掛かるようにせよ」「疲れさせよ」…
ただし、ここで戒めがひとつ。
「もっと不便に、もっと手間をかけてください」なんていうものは絶対に使ってもらえない。ゲーム的要素を上手に取り入れて、時間と手間をかけて喜びを得て成長していく――そんなシステムデザインを提示することが理想ではないでしょうか。
そうそう。不便だけを押し付けるようじゃやっぱりダメだと思うのです。
土壁にしても木組みにしても、伝統だというだけで残してくれ、という理屈は通らないと思っています。この業界の方はついその技術をウリにしてしまいがちですが、受け取る方にしてみれば、自分のくらしとはあまり関係ないことと思うだけ。
そこで、組み入れたいのがワークショップ。(我田引水とか言わない)
汚れる・疲れる・アナログである…不便益要素満載の土壁ワークショップを通して、面白っ!という体験、上達、工夫、発見…を得て、はじめて「対象系を理解できる」=木組み土壁を分かってもらえる、のではないかと思うのです。
という訳で、自信をもってこの非効率な取り組みを推進したいと思います!
2021年3月後半ー4月ころ、土壁ワークショップ開催予定です。ぜひ来てくださいね!